Dreamland/夢の国
- sakura

- 2024年2月3日
- 読了時間: 17分
更新日:2月12日
1かわいそうな男の子
4月の暖かい日。雪の子は溶け、花の子は顔を出す日。春の訪れは誰にとっても素晴らしい日であるにも関わらず、ある男の子はとっても寂しい思いをしていました。その日は男の子の誕生日でした。男の子は一年に一度の素晴らしい日を何日も前から楽しみにしていたのに、家族は彼の誕生日をすっかり忘れてしまっていたのです。毎日忙しいお母さんは、家に帰る頃にはすっかり疲れていてご飯を作るのがやっとでしたから、男の子は家族と過ごす時間がとても短かったのです。それに加え、悲しいことに、男の子のお兄さんはたいそう意地悪な人で、いつも男の子にいじわるなことばかり言うのです。
冷たい夕食を終えて、部屋に戻った男の子は窓の外から覗いているお月様に顔を向け、お祈りをしました。
「僕に素敵なプレゼントをください。もしくは、お母さんとお兄ちゃんが、お父さんのように僕をたくさん愛してくれるようになりますように」
しかし男の子がどんなに望んでも、お月様はこちらを見つめるだけで、お願いには答えてくれませんでした。
なぜこんなにも男の子がお祈りをするのかというと、男の子のお父さんが生きていた頃、「夢を見ないと何も始まらないんだよ」と教えてくれたからです。お父さんはお母さんやお兄さんと違い、男の子をとっても深く愛してくれました。毎朝男の子が目をさますと、お父さんは優しい声で「おはよう」とあいさつをしてぎゅっと抱きしめてくれましたし、毎晩寝る前にはとても素晴らしいおとぎ話を、毎日ひとつ聞かせてくれました。みんなが知っているお話から、お父さんが考えたお話まで。特に好きなお話は、夢を見る魔法使いのお話です。お話が終わると、決まっておやすみのハグをしてくれました。
お父さんがいなくなってからというもの、お母さんは悲しいのかすっかりあたたかさを失ってしまい、幸せいっぱいに満ちた家は、いつしかひんやり冷たく寂しいものとなっていまったのです。男の子は暗い部屋で一人涙を流します。周りには人がたくさんいるというのに、いつもひとりぼっちの気がしてならないのです。誰か、ぼくを助けてはくれないだろうかと。
2夢の国へ
「まったく、君のような子供を大事にしないだなんて、君の家族はどうかしているね」
自分しかいないはずの部屋なのに、聞き慣れない声が突然。男の子が慌てて窓辺を見ると、そこには一人の男が立っていました。
「あなたは誰?」
「おや、君のお父さんが僕の話を寝る前に聞かせてくれただろう?」
その男はとても綺麗な出立ちをしており、まとっている不思議な雰囲気は魔法使いそのものでした。
「ほら、夢を見る魔法使いの話。知ってるだろう?」
「まさか!ぼくそのおはなし大好きなんだ!」
どうやら男は、おとぎ話の国からやってきた魔法使いらしく、本を通して子供を見守っているのだと言います。そして悲しそうな男の子を見た彼は、おとぎ話の国を抜けて、男の子の元にやってきたのです。魔法使いは空色のコートにおんなじ色をした帽子、お菓子でできたかのようなリボンとベストを身につけており、そばにいるだけでもとても幸せな気分になってしまいそうです。
「僕の夢の国に連れて行ってあげたいんだ。ただし・・・」
「ただし、なに?」
男の子はお金を払えだとか、大事なものを一つもらわないと夢の国にいけないだとか、一度入ったら帰って来れないよとか、そんな恐ろしいことを言われてしまうのではないかと不安になりましたが、魔法使いの答えは、意外にもとても可愛らしい答えでした。
「僕はお花を集めているんだ。夢の国に来てくれる人に、一輪のお花を入場料の代わりにもらうのさ。そうしたら、夢の国が美しいお花畑になるんじゃないかって!」
なんて素敵な考えなんだろう!男の子は「ちょっと待ってて!」と元気よく答えると、家の庭に咲いているバラを一輪取り、戻ってきました。
「僕が毎朝お水をあげて育てているバラなんだ。あなたにあげるね」
男の子は部屋に置いてあった桃色の紙を手に取って、慣れない手つきで一輪のバラを包むと、嬉しそうな顔で魔法使いに差し出しました。
「この花は、君がとっても大切に育てていたものなんだろうね。今まで見たお花の中で一番素敵だ!こんな素敵なお花で溢れるお花畑ができたとしたら、夢の国はとっても素晴らしい場所になるに違いないな」
魔法使いは目を輝かせながらうっとりとした表情でそう語ります。
「ところで、夢の国は一体どんな場所なの?」
男の子が魔法使いに問います。
「どんな場所って、それはもう、素晴らしい場所!まるで夢の中の世界のように幸せに満ちた場所!君も一度訪れたらきっと大好きになってしまうと思うよ。」
魔法使いはそういうと、次々と夢の国について語り始めました。
「夢の国は、僕が想像した夢をそのまま現実にしたような場所。喋るぬいぐるみたちがやってきた人に風船をくれて、夢の国を案内してくれる。夜になっても終わりなんかやってこない遊園地、どんなに食べても無くならないわたあめに、チョコレートやクッキーに、色とりどりのボンボン菓子や砂糖をまぶして飾られたお菓子のお城。お城の名前はへクセンキャッスル!もちろん、そこにはジンジャーブレッドマンたちが住んでいるんだ。それはもう、毎日たっくさんのお菓子を食べてね!でも、どんなにお菓子を食べても虫歯にもならないし、お腹が痛くなったりもしないんだよ。だって、彼らはお菓子でできているんだから!あぁ、そうそう。一番忘れちゃいけないのは、大きな観覧車。その観覧車に乗って、一番上に行くと夢の国を一望できるんだ。昼なら、澄んだ青空と明るい夢の国を。それに夜なら、灯りに照らされた美しい夜景をね!どんなに遠くを見ても、夢の国に終わりなんて見えないんだ。ね、素敵だろう?」
魔法使いはまるで自分の描いた絵を自慢する子供のように無邪気な笑顔を浮かべて、男の子に夢の国がどんなに素敵な場所なのか、じっくりと教えてくれました。魔法使いはとても話し上手で、彼の話す世界がはっきりと頭に浮かんできたのです。彼がはなし終わる頃には、男の子はすっかり、夢の国のとりこ!あぁ、なんて素晴らしいところなんだろう。二人は天井を見上げてうっとり。
それに、男の子は「大人ってつまらないもの!」と思っていましたから、こんなに楽しそうな大人がいることにびっくり。
「大人でも、面白いことを考えられるんだね。」
「もちろん、そうだとも!たいていの大人は夢を見ることを忘れてしまうけど、子供の頃の夢を諦めずに持ち続けさえいればきっと叶うし、絶対につまらない大人になんかならないよ。僕の保証つき!でも、夢を叶えるためにはたくさん勉強を忘れないことだよ。」
二人は出会ってわずかな時間しか経っていないにも関わらず、まるで仲良しな友達のように楽しく話を交わす仲になっていました。
「さあ、僕の手を取って。ここを出て夢の国に行こう!」
魔法使いが立ち上がって部屋のドアに手をかけると、さっきまで暗くどんよりした廊下に繋がっていたはずのドアの隙間からは、あたたかい光が差し込んできました。
男の子は夢の国に足を踏み入れる期待と同時に、ここに入ったら二度とお母さんやお兄さんと会うことができないのではないかと思うと、急に寂しさが込み上げてきたのです。
「帰りたくなったら、また戻って来られるの?お母さんとお兄ちゃんに会うことはできる?」
「ははは、もちろん!夢の国に終わりはないけど、君の見る夢には終わりがある。必ず、帰って来られるよ。」
と、魔法使いはこたえ、男の子の手をぎゅっと握るとドアの中へ足を進めるのでした。
3夢の国
扉を開けると、そこは想像もできないくらい広く美しい世界が広がっていました。
男の子がここへくる前に魔法使いから聞いた話がそのまんま、いや、それ以上に想像もつかないぐらい素敵な場所だったため、男の子はびっくり!目を丸くしながら魔法使いの手を握りました。
「そんなに驚いた?じゃあ、ここの門を抜けたら、もっとびっくりしちゃうかな」
魔法使いは笑みを浮かべてそういうと、男の子を引っ張って目の前にそびえ立つ大きな緑の門へ連れて行きます。
それは宝石のようにキラキラしており、お花の模様がとっても素敵でした。
こんなすごい場所、文字でなんか説明できないよ!ええと、とにかく、素敵な場所です。それはもう本当に!
男の子があまりにも素晴らしい夢の国見つめていると、テディベアが小さな足でトコトコと男の子に向かって歩いてやってきました、手にはハート型をした桃色の風船が握られており、テディベアは微笑みながら風船を差し出します。
「僕にくれるの?」
男の子がテディベアにたずねると、テディベアは首を縦に振って頷きます。
「魔法使いの言った通りだ!くまさん、ありがとう。お礼にありがとうのハグだ!」
男の子はテディベアを持ち上げ、たくさんのありがとうの気持ちを込めてぎゅっと抱きしめます。テディベアはとっても嬉しそう!
「どうやらこの子は友達も紹介したいみたいだよ」
魔法使いは男の子にいいます。どうやら彼にはテディベアの言うことがわかるみたい。
テディベアが男の子の元から離れどこかへ行ったかと思うと、たくさんのおともだちを連れて戻ってきました。リボンをつけたテディベアの女の子、イースターのこうさぎ、大きなピンク色のこねこちゃん。なんて可愛いのだろう!ぬいぐるみたちは男の子の元へやってくると、それぞれ手に持った風船やお花のかんむり、お菓子の入った小さなバスケットを男の子に差し出してくれました。
男の子が幸せそうに贈り物を受け取ると、ぬいぐるみたちは目を輝かせながら男の子に向かって両手を伸ばします。
「もしかして、ハグして欲しいの?」ぬいぐるみたちは大きく頷きます。
「ようし、いっぱい抱きしめてあげるんだから!」
男の子は腕をめいっぱい広げると、ぬいぐるみたちをまとめて抱き上げてめいっぱいの愛を込めてぎゅっと抱きしめ、ぬいぐるみたちも、ふわふわの腕を一生懸命伸ばして、男の子にハグを返します。魔法使いによると、このぬいぐるみたちは何よりハグが大好き!元は男の子のような子供たちの持ち物だといいます。毎日子供たちにハグをしてもらうのに、動くことができないぬいぐるみたちはハグを返すことができない。そんなぬいぐるみの夢を、魔法使いは叶えてあげたのだとか。ぬいぐるみたちに別れを告げると、魔法使いと男の子は先へ足を進めます。それから先は、来る前に魔法使いが教えてくれた通りの素敵なお城や、観覧車、お腹いっぱいになってしまうほどのお菓子を手に抱え、楽しい時間を過ごしていくのでした。不思議と、どんなに遊んでも疲れを感じないのです。それは楽しくって疲れることを忘れてしまったから?それとも魔法使いが男の子に疲れないよう魔法をかけてくれたのでしょうか。
4 お母さんとお兄ちゃん
「どうしよう母さん、弟がすっかり目を覚まさないんだ。」
男の子のお兄さんはなんだかとても慌てた様子でお母さんを呼びに行きました。男の子が夢の国で楽しい時間を過ごしている一方で、なんて不思議なこと!男の子はぐっすり眠ったまま目を覚まさないのです。太陽が真上にいるというのに、ぐっすりと、気持ちよさそうに眠り続けているのです。普段は意地悪なお兄さんも、男の子の様子を見て珍しく心配そうな顔を浮かべています。
「きっと、こんな昼間まで寝ているどうしようもないやつなのよ。」
「だって、肩を揺すっても、耳元でおっきな声を出しても、ピクリともしないんだぜ、いいからついてきてよ!」
「そんなバカなことがあるもんか。こら、服を引っ張るんじゃない!」
お兄さんはお母さんのドレスの裾をぐいぐいと引っ張り、男の子の部屋に行くよう促します。お母さんは呆れた顔をしつつもお兄さんと共に階段を登り、男の部屋へと向かうのでした。
「ほら、もうお昼だよ。早く起きて、ご飯を食べなさい」
お母さんは珍しく大きな声を出して男の子に呼びかけます。肩をトントン叩いてみたり、ほっぺをつねってみたり。それでも男の子は目を開けることなくまだまだ、ぐっすり眠り続けています。
そうなると二人ともおんなじことが頭に浮かんでくるのです。
もしかしたら、もう二度と、男の子が目を覚まさなくなってしまうのではないかと。そう考えると二人はどんどん悲しい気持ちになってきました。今やっと、男の子にもっとたくさんの愛情を注いであげればよかったと気づいたのです。お兄さんは悲しい顔をしながら男の子をじっと見つめます。
「今までいじわるなこといってごめんな。もうそんなことはしないから、目を覚まして、一緒にあそぼうぜ」
お兄さんは男の子の袖を掴んで引っ張り続けますが、それでも返事はありません。
お母さんは何も言わずに離れた場所でそれを見ているだけ。冷たい涙が一滴、頬を伝っただけ。
5 帰る時間だよ
「なんて素敵な場所なんだろう!」
お兄さんとお母さんがどうしてるのかも知らず、男の子は手にたくさんのお菓子、頭には色とりどりの花飾りをつけてなんとも幸せそうです。横には魔法使いがそんな男の子を優しく見つめながら一緒に歩いています。ここにきてから、いったいどれくらいの時間が流れたのでしょうか。1日?7日?それとももっと?
この素晴らしい夢の国で幸せな時間を過ごした男の子はすっかり元気な心を取り戻し、幸せそうに笑い続けています。
「もう帰りたくないよ、ずっとここにいたいぐらいだ!」
そう男の子が言うと魔法使いは足を止めて男の子にこう言いました。
「ずっとは難しいよ。きみはそろそろ家に帰らなきゃ。」
帰ると言われた途端、男の子は自分のお家と家族のことで頭がいっぱいになりました。
何も言わないお母さん。意地悪なお兄さん。それに楽しくない毎日。
「いやだよ!僕、ずっとここにいるんだ!ええと、お花を毎日届けてあげるから、そしたらずっとここにいてもいいでしょう?」
「残念だけど、それはできないよ。」
魔法使いは申し訳なさそうな顔をして言います。
「それに、ここにくる前僕は言っただろう?君の見る夢には終わりがあるんだ。」
「いやだ、いやだよ!僕はここに残るんだ!」
男の子は目にいっぱいの涙を浮かべて、魔法使いを力いっぱいだきしめました。
「ここを出て戻ったら、またイヤな毎日が来ちゃうんだよ。なんでいやな場所に行かせようとするんだよ!」
騒ぎ立てる男の子の頭を、魔法使いは優しくなでます。そして自分を抱きしめる男の子を引き離しました。
「君はどうしてここに残りたいんだい?美味しいお菓子がたくさんあるから?魔法のある世界がすきだから?」
「そうだよ。僕はおとぎ話のようなこの場所が大好きなんだ、だからここに残りたい!」
「いいや、違うね。それは君が本当に思ってることじゃないはずだよ。」
魔法使いは微笑むのをやめ、男の子をじっと見つめて言葉を続けます。
「君はここで、たくさんのぬいぐるみや、夢の国の人たちに愛されていたね。もちろん僕も、君が大好きだよ。だからこそ連れてきたんだ。そこが肝心なんだ。君がここで幸せを感じることができたのは、僕の魔法のおかげじゃない。誰もが持ってる人を愛する心の魔法がかかったからさ。だから君は幸せな気持ちになったんだよ。帰りたくないって思えるほどに。今、君の帰るべき家に戻ったら、もう愛されないかもしれないから帰るのがいやだ。ちがうかい?」
魔法使いの言ったことは男の子の心のうちを全て見透かしているようでした。
こうも本当のことを言われてしまっては、男の子は言い返す言葉も何も出てできません。
「君が夢の国の人に愛情を持って接してあげた。それこそが魔法だ。僕だけじゃない。君だって魔法が使えるのさ。知らなかったろう?」
魔法使いはいたずらをした子供のように無邪気な笑顔を男の子に向けてそう言いました。
「僕も魔法を持ってるの?」
「そう!みんなが持ってる。それをどう使うかは君次第だ。さ、家に帰って、君のお母さんやお兄さんを愛を込めて抱きしめてあげてごらんよ。きっと魔法がかかってくれるはずよ。」
男の子はとうとう魔法使いや夢の国とお別れしなければならないことを感じ、再び涙を流しました。今度はさっきよりも、ほんのり温かい涙を。
「わかった、ぼく、家族のもとに帰るよ。」
男の子はそう言うと、初めに来た扉のある方へ体を向け、ゆっくりと歩き始めました。
6おやすみなさい
「どこに行くんだい?帰り道はそっちじゃないよ」
魔法使いは不思議そうな顔で男の子を見つめます。
「そうだそうだ!帰り方を君に教えていなかったんだね。さ、着いてきて。帰る時はね、ちょっと一眠りするだけでいいのさ。」
魔法使いは男の子の手を取り、ヘクセンキャッスルとはまた別の、まだ行ったことのない紫と桃のお城へ案内します。それは夢の国の端っこにあり、全てが輝く宝石のようにキラキラとしていました。
「ほら、着いたよ!さぁおいで。」
男の子は初めて入る場所にワクワク!でも、そんなことより、魔法使いとさよならをしなければならない気持ちがあまりにも大きくて、悲しい気持ちが頭から離れません。何も言わずにうつむいて魔法使いについていきました。お城の1番上のお部屋に着くと、その中には絵に描いたようにかわいらしいベッドがありました。男の子は、もう帰らなければいけないと決心をして、魔法使いの言った通り、ベッドに横になります。
「さぁ、おやすみ。良い子は寝る時間だよ。」
男の子がベッドに横になると、魔法使いはベッドに腰掛け、優しく布団をかけてくれました。
「まって、最後に一つだけお願いしてもいい?」
「なんだい?」
「お父さんがいた時は、僕が寝る前にいつもお話を聞かせてくれて、お話が終わるとおやすみのハグをしてくれたんだ。だから、その…」
「なーんだ、そんなことか!お安いごよう。どんなお話を聞かせてあげようかな。」
すると魔法使いはたくさんのおとぎ話を楽しそうに話してくれたのです。どのお話も、男の子が聞いたことあるものばかり。それは男の子のお父さんが話してくれたお話と全く同じものでした。
魔法使いが話し終わった頃には、男の子はすっかり眠くなってきたようで、眠たげな声でこう言います。
「僕、夢の国がとっても楽しかった。あなたみたいな大人になりたい。夢のような場所を作って、みんなに幸せを届けてあげたい。寂しい人も、たちまち元気になってしまうような素敵な場所を。あなたほど素敵な場所は作れないかもしれないけど、僕、頑張りたい。」
「それはとっても素晴らしい夢だ!きっと君なら、素敵な場所を作ることができると思うよ。いいかい?忘れないで、何事も想像して、夢を見なければ始まらない。夢を持つことは誰でもできる。でも、それを信じ続けて叶えられる人はほんのひと握り。それは夢が大きいからじゃない。夢が叶うと自分自身を信じ続けることは、なによりも難しいことなんだ。でも、君ならできるって信じているからね。」
「さぁ、おやすみ。君が夢を叶えた時に、また会おうじゃないか。」
魔法使いは男の子を抱きしめると、ベッドから立ち上がり、部屋の電気を消して、とうとう立ち去ってしまいました。
追いかけたい気持ちでいっぱい、でも、眠くて仕方がありません。
「さようなら」
そう言い終わる前に、男の子は眠りについてしまいました。
7男の子の夢
目を閉じていてもわかる明るい光、どうやら朝が来たみたい。いや、これは真昼の明るさ?そう思いながら男の子がゆっくり目を開けると、そこはさっきまで寝ていたベッドではなく、いつもと変わらない自分の部屋の中でした。
でも、今日はいつもと違うところがふたつ。
ひとつはお母さんとお兄さんが男の子の部屋にいたこと。そしてもうひとつは、2人が今まで見たこともないほどに嬉しそうなかおをしていたこと。
「どうしたの?ふたりとも、僕の部屋にいるなんて。」
するとお兄さんが口を開きます。
「どうしてだって!?それはお前が昼まで寝てるようなお馬鹿さんだからだよ!」
いつもの嫌なお兄ちゃんだ。
「まったく、早く下に降りてさっさとご飯を食べな」
お母さんも、いつも通り無愛想。でも、2人とも何だかとても嬉しそうです。
男の子はふと、魔法使いが言っていたことを思い出し、2人のもとに駆け寄って思い切りハグをしました。
「お母さん、お兄ちゃん!僕ね、魔法使いに夢の国へ連れていってもらったんだ、そこでたくさんのお菓子を食べたり、観覧車に乗ったりね!それから綺麗なお城に行ったりしたんだよ!」
夢の国のことを話したくてソワソワする男の子、でも2人は何の話なのかちんぷんかんぷん。
「また弟が変な夢を見たみたいだな、でも、いいや。今日は仕方ないから話を聞いてやるよ。」
「そうね、私はうんと美味しいお昼ご飯を作ってあげようかしら。みんなでご飯を食べながら話を聞きましょう。」
2人は男の子の方を見て嬉しそうに会話を弾ませます。今までだったりありえないほどに、家族みんなが幸せそうにしているのです。もしかしたら、男の子のハグには、本当に魔法がかかっているのかも?いいえ、男の子の心の内にある、家族を愛する気持ちが、ようやく伝わったのかもしれません。そして2人も、男の子が目を覚まさなかった間に、初めて家族への深い愛を持っていることを知りました。
魔法とは、何かを変える不思議な力。ひとはみんなに愛を届ける魔法を持っている。それはハグをしたり、一緒にご飯を食べたり、楽しくお話ししたり、いろんな形で魔法をかけることができるのです。男の子はそんな素敵な魔法を家族に、友達に、そして世界中のたくさんの人に届けて、幸せな世界を作ろうと。そして、夢を叶えた暁には、再び夢の国で、魔法使いに出会えるようにと、大きくて素晴らしい夢を抱くのでした。
おしまい





好きです。世界観が凄く面白いです!!これからも頑張ってください!!